英国で一番美しい風景が望める北西部の湖水地方、緩やかに時が流れる片田舎のその外れに、小さな教会がある。
 教会といっても、数世紀前に造られたもので、今では地元の人間もあまり足を運ばない寂れたものだった。息を潜めて、じっと世界の終わりが来るのを待っているような、物悲しい静謐だけがその教会を包んでいる。
 簡素な設えの扉を開いて、礼拝堂の中に足を踏み入れると、呼吸さえも忘れるほどの澄んだ大気に包まれた。
 礼拝堂の最奥、神の子たる現人神の偶像に向かって伸びていく濃い影を見つめて立ち尽くす。清いものを目前にして抱いた畏れを、しかし自分の内側に呑み込んで、逃げ出すことはせずに扉を閉めた。低い軋みが礼拝堂に響く。
 鎖された薄暗い世界でひとり、メリッサは磔にされたしゅの像を見つめた。
 彼の後ろにあるステンドグラスから踊るように降る、きらきらした極彩色の粒を、憎むことはできずに。





世界はまだ目を覚まさない






 神様なんて大嫌いだ。
 礼拝堂に並べられた長椅子の群れ、その一番後ろの席に腰を下ろして、メリッサは神の子を遠く眺める。
 万聖節ハロウマスを前にして霧の都ロンドンを彩るウィル・オー・ザ・ウィスプの光から逃げて、一族の故郷まで遠路遙々足を運んで思うことがそれか、と失笑が浮かばなくもなかったが。曾祖母の愛したこの孤独な礼拝堂が、メリッサは昔から苦手だった。手を引かれてここに身を晒すたびに、いつも、自分は神様に愛されていないのだと思い知るのが堪らなく苦痛だったのだ。それは今でも変わらない。
 それでもどうしてか、時々、ふと気がつくとこの寂寞の中に身を置いている。
 誰もいない、誰の目にも触れない、粛とした薄闇に浸りながら、メリッサは口の端からこぼれ落ちる苦い微笑を禁じ得なかった。──神様なんて大嫌いだと言いながら、心のどこかでは、それに縋りたくて仕方がないのかもしれないと小さく思う。
 世の中で救世主と崇められるかのひとは、決して自分を救ってなどくれないのに。
 メリッサは力を抜いて長椅子の背もたれに身を預けながら、紅い眸を細めた。その全てを以て人間の罪業を贖おうとした姿を尊く思うことはできそうになかったが、白い光に照らされるその彫像は酷く清廉だと感じた。礼拝堂に満ちる闇が澄んでいるのは、あの光の所為だろうと。
 息をするのも憚られるような静けさに、そっと目蓋を下ろす。
 このまま、まるで雪に埋もれるみたいに、死んでしまえればいいのにと心の中で願った。





 ──神様はいつだって公平で、平等で、無差別で、だから誰にも救いの手を差し伸べたりはしないのだわ。


 冷たい声と悲しそうな横顔が甦る。一昨年のハロウ・イブ、英国の至るところで灯されたウィル・オー・ザ・ウィスプを見つめながら、従姉のシンディーがそう呟いたのだ。暗い眼差しは、まるで『血族』に蔓延る闇そのもののようで、酷く背筋がぞっとしたのを憶えている。
 その年、シンディーは恋人に裏切られた。相手とは婚約もしていたのに、だ。不意に零した言葉は、だから呪詛の色を含んでいて、メリッサは怯えた。


 ──愛さなければよかった。そうすれば、そうすれば苦しい想いを抱いたまま、明日を数えずに済んだのに。


 彼女は涙を零さずに泣いていた。
 シンディーに、新しい恋をすればいいじゃない、とは言えなかった。彼女にとって──またメリッサにとって、人に恋をするということは、失敗の許されないことだからだ。恋をして、誰かを愛するということは、『血族』にとって未来を得ることと同義だった。
 恋が終わるというのは、終焉の訪れ──つまり、そこには死しかない。
 従姉のシンディー・スタフォードは美しい女性だった。黄金の瞳に、蜜色の髪を持った、社交界の太陽だった。
 鮮やかな光を何度眩しく思っただろう。彼女は闇に生きる『血族』でありながら、誰よりも煌めきを帯びた存在だった。ただ一つ、彼女を呑むことのできる暗闇があったとしたならば、それは一族の血脈に違いなかった。
 闇に生きる『血族』──すなわち、シンディーは人の生き血を吸う魔物だった。
 神様に愛されなかった異形の存在。人々は俗に吸血鬼と呼ぶ。
 メリッサもまたそうだった。
 運命の血族、と云われる。己の名を以てただ一人の人と契約し、久しく永い時をその人間の生き血を糧にして生きていく、メリッサやシンディーはその一族だった。永劫を共有し、運命をとざす。契約は二十歳になるまでに交わさなければならず、でなければ死ぬしかできない『血族』。──恋をしなければ生き延びられない、決して強くはない魔物。
 メリッサの一族は、総じて吸血鬼と称される異形の仲間内でも、更に異端とされている。
 運命の血族とは嘲笑の名だった。
 神に見捨てられた存在でありながら、神の子どもたる人間を愛し、世界の意志に翻弄される脆弱な一族だと云う──
 実際その皮肉通りだと、メリッサは思っていた。思うようになった。シンディーは結局、二十歳を超えることはできずに、硝子のように砕けて散った。去年の晩秋の出来事である。『契約』を交わし、共に永遠を生きるはずだった婚約者に裏切られたシンディーは、メリッサの瞳には哀れな存在としてしか残らなかった。
 二十歳を前にして、どうしてシンディーが恋人を失うしかなかったのか、その詳細をメリッサは知らない。
 ただ邪推するなら、恐らく、来たるべき未来を相手が畏れたのだろうと思う。
 姿形は似ていても、どんなにその容姿が美しくても、異形は異形で、化け物は化け物に過ぎない。シンディーの恋人は、ある日ふとその現実に思い至ったのかもしれなかった。終わりの見えない永遠を、吸血鬼の『餌』として生きる。──愛だけで乗り越えられることなど、高が知れていただろう。
 恋なんてしない、というのがメリッサの口癖だ。
 死の間際までずっと、愛さなければよかった、と譫言うわごとのように繰り返したシンディーが今もまだ心の中にいるから。あんなふうに辛い想いをするのなら、誰かにどうしようもない絶望を見せるくらいなら、いっそ死んでしまえばいい。
 シンディーという太陽の翳りを目の当たりにしたメリッサは、殊更に光を疎んだ。
 最初から暗闇の中にいれば、傷つかずに済むと、ただそう考えて。



 再び目を開けたときも、神の子の像は礼拝堂の奥で白い光に包まれていた。
 礼拝堂に満ちる静寂は、或いは音楽のようでもあって、心の暗闇から目を醒ましたメリッサを柔らかく抱く。ステンドグラスの色彩を透かし、音もなく降り注ぐ光は、はらはらと舞い落ちる羽根にも似ていた。石膏の肌に触れて煌めく。
 神様、と。無意識にメリッサは唇を震わせた。主の御名を舌に乗せる。それ以上何かを乞うことはなかったが。
 シンディーが神に祈ったことはなかっただろう。祈っても、きっと聞き届けてはもらえないから。
 しかし、曾祖母はこの小さな教会を愛していた。神の子の像が置かれただけの礼拝堂に厭くこともなく足を運んだ。なぜと問えば、曾祖母は淡く微笑むだけで、いつかわかるわとメリッサには教えてくれなかった。ただ、まだ小さかったメリッサの手を、宝物を守るように握りしめていた。
 祈っていたとは思えない。願うこともしなかったろう。曾祖母はあるがままを受け入れる、そんなひとだった。
「──メリー?」
 不意に扉の開く音がして、堂内に一つの影が伸びた。目映い光が真正面から石膏像を照らす。
 メリッサは視線だけを背後の扉へと動かした。目を細めて、静寂を破ったぬしを見遣る。
「……カーティス」
 身を焦がすような陽射しを苦ともせずに背負い、そこに立っていたのは幼馴染みのカーティスだった。金色の双眸は燃えているかの如く強い耀きを宿し、メリッサを見つける。月光に似た白金プラチナの髪が、礼拝堂に駆けてくる風に煽られて、はらりと靡いた。
 彼はメリッサの姿と声を確認すると、安堵したように吐息した。やっぱりここにいた、と独りごちると、扉を閉めて近寄ってくる。
 メリッサが腰を下ろしている長椅子の傍まで来ると、立ったままメリッサを見下ろして、カーティスは眉を顰めた。
「あんまり心配させんなよ。せめて書き置きくらい残してくれ」
 聞き慣れたカーティスの小言に小さく肩を竦めると、メリッサは視線を礼拝堂の奥へと戻す。
「思いつきで来たから。そんなこと、すっかり忘れてたわ」
「ミス・シーモア、すごい頭にきていたからな。おまえ帰る前に覚悟しておいた方がいいぞ」
 溜息と共に吐き出された女家庭教師ガヴァネスの名前に、面倒ね、と首を竦める。だが元々、ミス・シーモアは淑女レディらしく振る舞わないメリッサのことが嫌いなのだ、メリッサがロンドンにいようがいまいが彼女には関係がないだろう。
 辞めればいいのに、という言葉をいつもすんでの所で呑み込むのにメリッサが必死なことを、カーティスは知らない。
「せめて侍女メイドくらい付けて出てこいよ。新人の……なんだっけ? アーリン、だとかいうのはお気に入りなんだろ?」
「アーリンは嫌いじゃないというだけよ。一人でここに来たかったの。……いいじゃない、わたしが型破りなのは今更だわ。なにせ、十八になってもデビュタントの済んでいない、ウィルフレッド伯爵家の、蕾の薔薇バッド・ローズですからね」
 普通、貴族の子女は共もなしに出かけたりはしない。ロンドン郊外であるなら尚更だ。
 だがメリッサは一人が好きだった。他人と深く関わり合うのは、面倒臭いことであるとしか思えない。幼馴染みのカーティスや、友人のジョスリン、その婚約者のヒューなど、自分の両手で数えられる程度の人々がいればそれでよかった。ガヴァネスはもちろん、侍女も必要ないし、社交界で愛想を振りまくなんて以ての外だ。
 ──どうせ、残り僅かな命なのだから。世界はずっと狭いまま、鎖されてしまえばいいと思う。
「蕾の薔薇と呼んでいるのは、人間の子息令嬢じゃないか。メリー、おまえさ、いい加減『血族』で自分がどんな扱いされているのか理解しろよ」
「それこそくだらないわよ、カーティス。『血族』の始祖の血を継いでいるから何だっていうの。讃えられているのはわたしじゃなくて、アーチボルドの血脈でしょう。血族の薔薇ルビー・ローズだなんて──本当、莫迦みたいだわ」
 ロンドンの社交界で、メリッサは蕾の薔薇と揶揄されている。ジュネヴィーブ伯ウィルフレッド家の、メリー・ウィルフレッド。深窓の令嬢は、未だ咲けない可哀想な蕾──と。
 だが、闇に生きる『血族』の世界での、メリッサ=ローレンス・アーチボルドは特別だった。雪花石膏アラバスターのような肌、漆黒の髪ブルネット紅玉ルビーの瞳。総じて眉目麗しい吸血鬼の中でも、一際目を惹くその美貌は、古の血脈をそのまま継いだ吸血鬼本来の姿だと語られ、血族の薔薇と賞賛されている。
 メリッサは柳眉を歪めて自嘲した。『血族』間の異名よりも、社交界での嘲笑の方がまだマシだった。
 ──吸血鬼でありながら太陽だったシンディーすら叶えられなかったものを、叶えられるわけがない。
 まして、吸血鬼の血を色濃く引き継いでいるのなら、尚更。
「揶揄の方がずっといいわ」
 少なくとも、叶わない夢を見ずにいられる。
 白い光を遮るようにメリッサは長い睫毛を伏せた。メリー、と頭上からカーティスが呼び掛けたけれど、何も言わなかった。
「……クリスマスよりもハロウマスの方が嫌なのよ」
 ぽつりと呟く。意味もなく、祈りの形に指を組んだ。
「ハロウ・イブは、もっと嫌なの。だから、あのウィル・オー・ザ・ウィスプの光から逃げてきたわ」
 無論、湖水地方でも万聖節前夜祭は行われているが。その外れであれば、元より人の近づかない場所であるから、静かになれると思った。
 ウィル・オー・ザ・ウィスプ。永い暗闇を漂うことになった哀れな男に、悪魔が渡した唯一の光。ロンドンの至るところでゆらゆらと揺れるあの燈を見ていると、どうしようもなくやるせなくなった。一時その光に縋っても、永劫救われることはないのだと感じてしまう。
 魔を払うためのハロウ・イブには居場所がない。ウィル・オー・ザ・ウィスプを灯し、同情しながらも、街並みは人間為らざるものを受け入れてはくれないのだ。──たとえランタンの意味を、ハロウ・イブの価値を、誰もが理解していなくても。ただ楽しみたいだけなのだとしても。知っているメリッサにとっては、苦痛でしかなかった。
 人に恋をしなければ生きられない『血族』。
 けれど、きっと。恋をしても、愛してはもらえないだろう。
 人の形をしていても、人の社会で生きていても、魔物は魔物だ。ハロウ・イブになると、いつも思い知る。
 そのたびに怖くなる。恋なんてしないと、頑なに心を鎖さなければ生きていけない。なんて脆弱な、とメリッサはせせら笑った。
「メリー」
 優しくて大きな手が髪を撫でる。柔らかなぬくもりが痛かった。
 メリッサは礼拝堂の奥を見据えた。光が降り注ぐ音さえ聞こえてきそうなほどの静謐に、弱く唇を噛む。偶像をじっと見据えた。
「ねえ、カーティス。神様は誰の味方もしないのよ。だからわたし、憎みたいのにそれができないの。大嫌いなのに。こんな生き物を創造した神様なんて大嫌いなのに。どうしてここから追い出そうとはしないの。白い光の中でただ黙っているの。いっそこの身を嘲笑してくれたなら、わたし、思い切り不幸ぶって憎むことができるのに。──ねえ、カーティス。神様って、どうしてあんなに静かで、綺麗なのかしら……」
 ステンドグラスを透かして光る、極彩色の粒は美しく。それを背負い、天窓から降る光の許で空を見上げて眠る神の子は、酷く清らかだ。
 カーティスは応えなかった。ただ黙ってメリッサの髪をゆっくりと撫でる。
 その優しさに縋るように、メリッサは静かに目を閉じた。目蓋の裡に暗闇が広がる。だが見えずとも白い光を感じ、結局自分は世界の中に存在して逃げることはできないのだと思った。神様は見ている。きっとこの畏れも、憧れも、何もかも。
 たとえ救いの手が伸ばされることはなくても。


 ──ねえ、メリー。いつか貴女が誰かを愛するときが来たなら。


 ふと記憶を掠めたのは、憧憬した昔日の恋心。天使の羽根のように、白く、柔らかな──
「……カーティス」
 瞳を開け、メリッサは傍らのカーティスを仰いだ。彼は髪を撫でる手を止め、小首を傾げると、なに、と訊く。
 メリッサは僅かに唇を動かして──けれど何も言わずにかぶりを振った。何でもないわ、と言うと、徐に椅子から立ち上がる。
「何だよ、言いかけて止めるなんて気持ち悪いな」
「貴方に言ったって仕方がないなと思って」
「はあ?」
 渋面になる幼馴染みに小さく笑って、メリッサはその横をすり抜けた。カーティスは不服そうに口を尖らせ、メリッサを追う。
「おまえな。心配して探しに来てやった幼馴染みに向かって、その態度と言い草は非道いんじゃないの」
「そういえば、どうしてカーティスが迎えに来るのよ。従者バレットでも従僕フットマンでも、適当に寄越せばよかったじゃない」
「メリーのことを俺以上に知っている奴はいないだろうが」
 なによその自負、とメリッサはくすくすと微笑を零す。一瞬複雑そうな表情をしたものの、しかしカーティスは持て余したらしい感情を言葉にはせず、ただ肩を竦めるだけに留めた。そうして話をすり替える。
「それで? アーチボルド公爵家のお嬢様は、ハロウマスはカントリーハウスで過ごされるんでしょうかね?」
「……嫌な言い方ね、カーティス・ブロンテ」
 じとりと半眼で睨めつけると、してやったりとばかりに彼は口角を上げた。
 メリッサは浅く吐息し、帰るわよ、と面倒臭そうにドレスを捌く。
「わざわざジェラルディード伯が迎えにいらしたんですもの。帰らなかったら大変なことになるわ」
 ミス・シーモアに怒られるどころの話ではない。社交界の紳士淑女からの嫌がらせで、毎日が嵐になってしまう。
「──俺は別に、カントリーハウスでメリーと二人で過ごしてもいいんだけど?」
 扉の前まで来たとき、背後から手が伸びて、メリッサは扉とカーティスの間に挟まれた。目を瞬く間もなく、濃い影に覆われ、髪に唇を寄せられる。僅かな空間越しに感じる、身体に寄り添ったぬくもりに、メリッサは小さく震えた。
 だが、音を立てた心臓には気づかないふりをして、表情を取り繕う。一瞬忘れた呼吸の仕方を取り戻し、言葉を探った。
「……冗談でしょ」
 肩越しに見遣って唸れば、言うと思ったよ、とカーティスは笑った。
「じゃあ、帰ろう。──みんなが待ってる」


 ──愛するときが来たなら、どうか信じて。たとえ神様が傍にいなくても。きっと幸せになれるって。


 カーティスの笑顔を見ながら脳裏を過ぎるのは、いつかのシンディーがメリッサに伝えた言葉だった。死ぬ間際の彼女ではなく、幸福に美貌を綻ばせていた、目映い太陽の頃のシンディー。メリッサは彼女が好きだった。憧れ、そしていつかシンディーのようになりたいと願った。
 彼女の死は、メリッサの心に影を落としている。恋は叶わないものだと。──けれど、確かに幸福であったときもあったのだ。
 シンディーに似た、カーティスの金色の双眸を覗いた。穏やかに微笑むその瞳に、少しだけ、生前のシンディーを重ねて、祈りたくなる自分を見つめる。光の中で生きることを苦しく感じるこの身を、それでも愛してくれる人がいてくれるのなら、と。
 今はまだ信じられなくても。明日を願うことはできなくても。
 ウィル・オー・ザ・ウィスプが愚かな男を導くように、畏れるばかりの弱さをも明日へと繋いでくれる誰かに。
 いつか出逢う日が来るのなら──
 カーティスが扉を開いた。背後から射し込んだ黄昏の光に、メリッサは目を細める。礼拝堂に二人分の影が伸びた。それを見つめて、ふと、傍に誰かがいることを愛おしく思った。
 メリッサはゆっくりと振り向いた。長閑な田舎を照らす斜陽は、逃げ出してきたロンドンを彩る光の群れにどこか似ていたが、それでも不思議と怯えは浮かばなかった。
 目映いばかりの陽光を平然と背負い、カーティスが手を差し出す。メリッサは僅かに笑んで、その手を取った。
 扉を閉ざす前、最後に一度だけ、礼拝堂の奥に佇む主の像に視線を向ける。
 神の子は変わらずそこにいて、静寂の中、白い光に包まれていた。



(title by tricky 様)     







「海曲のララバイ」の冴島芯様から2008年ハロウィン企画記念作品という事で頂いて参りました!
こちら、ゲームクリアの特典となっていたのですが、まずゲーム画面への入り口を発見するだけで一苦労で、またそこからゲームに挑戦するのも大変で、冴様の作品欲しさに柄にもなく頑張ってしまいました。笑
何日も粘った甲斐もあってか無事クリアする事が出来、しかもこんな素敵な小説を頂いてしまって、本当にもう嬉しいばかりです。
陽が射し込んでいる協会やそこに佇む二人の姿が映像になって浮かんで来て、吸血鬼の『血族』という設定に惹かれて何度も読み直しております。

ではでは、黎様!
この度は素敵企画お疲れ様です!それから、有難う御座いました!